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〈Special〉ライフシフト大学第7期卒業記念ゲスト講演会レポート

ライフシフト大学第7期卒業記念ゲスト講演会が2023年2月11日に開催されました。ゲストはお笑いコンビ「東京ダイナマイト」のハチミツ二郎さん。スペシャルレポートをお届けします。

インタビュアー:ライフシフト大学徳岡理事長、藤田学長、田中学長補佐                                                       進行:ライフシフト大学事務局 藤井

―― みなさんご存知、芸人として大活躍のハチミツ二郎さんは、芸人活動を始められたのが1996年、今年で芸歴27年の大ベテランです。2001年に現在の相方である松田大輔さんとお笑いコンビ「東京ダイナマイト」を結成。その実力は「M-1グランプリ」などおなじみのお笑いショーレースで決勝進出を果たすほどです。そんなハチミツ二郎さんですが、今回私たちが興味を持ちました意外な経歴がございます。それは芸人の活動の傍ら始められた「会社員」としてのお顔です。2020年に芸人活動と並行してIT企業の正社員としてもキャリアをスタートされ、同年12月には芸人さんの一般企業への就職を支援するマッチングサービス会社の立ち上げに参加、社外取締役に就任するなど新たな活動も始められています。今回の講演では、ライフシフト大学でもたびたびテーマとして取り上げられる「パラレルキャリア」について、自らも実践されているハチミツ二郎さんにお話を伺いました。

会社員を経験してわかったお金のこと

―― まず芸人と会社員、二足のわらじの生活をされているハチミツ二郎さんの1日のスケジュールについてお伺いします。気になるのが3時半起床となっていますが。

ハチミツ二郎:私はシングルファザーで、小学生の娘を育てています。仕事プラス子育てがあるので、自然と早寝早起きになってしまいました。

―― 6時にリモート作業スタートとなっています。

ハチミツ二郎:入社当初は10時出社でしたが、入社から3日で緊急事態宣言になり、フルリモートでの作業となりました。実はこれが大きくて、リモートだからこそ芸人と会社員が両立できています。自分のペースで作業ができるので、6時にタイムカード的にスマホで顔認証しているものの、作業自体は3時半から前倒しで進められるわけです。

―― 芸人のお仕事はテレビ出演などでしょうか?

ハチミツ二郎:基本的には劇場です。テレビのロケだと19時終わりの予定が23時になることも珍しくありません。出演する時間が決められている劇場だからこそ、今の働き方ができているというのもありますね。

―― 二つのお仕事をやりつつ、娘さんとのお時間も取られていて素晴らしいですね!

ハチミツ二郎:最近娘は一人の時間が欲しいと言っています。

―― 芸人として活躍されていたハチミツ二郎さんが、なぜ会社員として働くことになったのかお聞きしたいと思います。3年前にIT関連企業の会社員になられたことがニュースとなりましたが、どういう経緯があったのでしょうか?

ハチミツ二郎:もともとはクラウドファンディングで本を作ろうとしていたんです。8ページのロングインタビューを載せますというリターンを用意したら、出資してくれたのが今の会社の社長でした。その後、テレビ番組でゲームのプレゼンをしたところ、その社長から「うちでゲームを作りませんか」とお声がけいただきました。さらに「二郎さん、思い切ってうちに就職しませんか」とお話をいただいたので、最初は面白半分、芸人の自分が会社員を経験したらどうなるだろうと思って就職したら、まさかのコロナで芸人の仕事が半年くらいなくなってしまったんです。会社員になって良くわかったのがお金のことです。この給料で生活する会社員は大変だなと。IT企業の給料は、芸人としてイベントに出たときの2日分です。でもコロナ禍ではその2日分すら稼げなかった。芸人はもらえるときはもらえますが、浮き沈みがあります。一方会社員は安定とまでは言いませんが固定でもらえる。でもこの給料で都内で生活するなら、夫婦2人で仕事しなければならないし、家を買おうとしたら仕事を2つ持たないと厳しい。今は副業も解禁される会社が増えており、複数の仕事ができる時代です。このまま自分も、今後芸能活動が上向きになっても続けてみようかなと思っています。

芸人と就職は真逆の関係にある

―― 一昨年12月には一般企業へ芸人さんの就職を支援するマッチングサービスを立ち上げられました。こちらはどのようなサービスですか?

ハチミツ二郎:私が会社員になったというニュースが出てすぐにコロナ禍になったので、妻子持ちの先輩芸人から「コロナで仕事がなくなった。どうしよう」という問い合わせをたくさん受けました。そんな中、私もコロナが重症化して長期間入院したのですが、芸人は個人事業主なので何の保障もありません。でもIT企業の保険に入っていたので給料の70%がもらえたわけです。こういう部分に救われたので、芸人をやりながら就職ができる会社を立ち上げたのですが、これは大失敗でした。芸人は就職しないんです。芸人と就職は真逆なんですね。テレビでも取り上げていただいたので、企業側からは「芸人が欲しい」というお話がたくさんきました。だけど就職したい芸人がゼロなんです。来るのは企業側が求めるネームバリューにちょっと届かない人ばかり。芸人は二刀流を求めていないんです。アルバイトの方がきつくてもアルバイトをしてしまう。そもそも就職できると思っていない。高校を出て、芸人になって貧乏時代が10年。そんな人ばかりです。奥さんと子供のためには就職したほうがいいんですけどね。

―― 企業側はなぜ芸人さんに来てほしいのでしょうか?

ハチミツ二郎:企業は技術がなくても会議が仕切れる人、コミュニケーション能力の高い人を求めています。実は売れている芸人ほどコミュニケーション力がありません。売れてない芸人のほうがコミュニケーション力が高いんです。カラテカの入江君がいい例ですね。彼はお笑い業界ではポジションを築いていませんが、コミュニケーション力は高い。企業側としては、そういうムードメーカーを欲しがっているという印象を受けます。

藤田学長:ハチミツ二郎さん自ら会社員と芸人の二足のわらじでやっていることが、モデルケースとして若手には響かないのでしょうか?

ハチミツ二郎:そもそも芸人は福利厚生の大切さに気づいていない人が多い。芸人って売れないときは低所得なので年金を免除してもらうんです。そういう経験を積んでいるから、「払っても入ってこないみたい」な思いがずっとあります。

私の場合はある保険と社会年金、2年しか払っていませんが「もうこれだけもらえますよ」ってハガキが届きます。これが奥さんにもついてくる。こういうことを芸人は勉強してこなかったから全然知らないんです。これまでは女房子供を泣かすのが芸人でしたが、これからは女房子供を泣かさずに芸人をやっていかなきゃいけない時代になっています。ここまで説明すれば少しは考えも変わるかもしれませんが、やはり芸人だけで売れたいという人の邪魔はしたくないので、こちらからは言いません。もちろん助けを求めてくれば紹介はします。

徳岡理事長:企業側からすると芸人さんのコミュニケーション力を取り入れたいという考えがあると思います。それに応えるのも芸人の本領発揮のような感覚はないのでしょうか?

ハチミツ二郎:芸人を欲しがっているのは名だたる企業ばかりで、私も今勤めている会社からそちらに飛び込んだ方が給料が良いんです。会社員と芸人の両方をやって気づいたのですが、企業が求めているのはコミュニケーション力です。だったら芸人でなくても、皆さんがコミュニケーション力を高めれば欲しがられる人材になれます。ライフシフト大学でもコミュニケーション力を高める授業として、吉本から芸人を呼ぶのも良いかもしれませんね!

もっと「はみ出す」ことが求められる時代に

ここからはQ&Aコーナーです。パラレルキャリアで活躍されているハチミツ二郎さんへの質問をライフシフト大学受講生からいただきました。

Q.ライフシフト大学にはたくさんの講義がありますが、これは面白そう、役に立ちそうといった講義はありましたか?

ハチミツ二郎:アートセッションとライフシフト概論が気になりました。アートに限らずセッションは、経験しないもの、自分の知らないものを教わる面で大切だと思います。

徳岡:アートセッションは、まさに絵画を見て自分が思ったことを言う講義で結構人気があります。サラリーマンは論理的に正解をコミュニケートする、あるいは何もしない、主観を言わないんです。認められそうなことしか言わない、安全牌のようなことしか言わない。「自分のキャリアはこうありたい」「こんな人生を過ごしたい」といった言いにくいことのハードルを下げ、主観を口にしても安全だということが学べます。

ハチミツ二郎:私は吉本のNSCという養成所(吉本総合芸能学院)で授業をやっているのですが、みんなそつなくこなします。今はYouTubeを使って分析できるので、昔の芸人よりもレベルが上がってますが、それでもM-1では3回戦までしか行けないんです。私の授業では「はみ出せ」としか言いません。岡本太郎さんは生徒に「キャンバスをはみ出せ」と教えました。本当に絵筆をはみ出すのか、想像力をはみ出させるのか、そこまでは教えてくれません。「はみ出せ」の一言で、どう表現するか。でも若い人ははみ出さないです。例えばアートを見たら、いろいろなことが言えるけど、みんな教科書から持ってきたような答えです。「僕はそう思いません」ということは言わない。私が今手掛けているゲームは大喜利的な発想を育むもので、2歳児でもできるようにしています。学校では当たり前のことを言うように教育されてきますが、そこからはみ出すためには自分の特徴を持つことが必要です。人と一緒の感覚を持ちつつ、何かひとつは見出せるものを持っていないと、M-1の決勝には行けません。「空振りでもいいから大振りを見せてくれ」と1年目の生徒に言うんですが、それをしないんです。

田中学長補佐:会社でも若手はそつなくこなします。「はみ出せ」って言われたら、自分なりに考えて試してみることが大事だと思いますが、それをやらずに「どうしたらはみ出せますか」と聞いてくる。

ハチミツ二郎:はみ出し方を聞いちゃいけません。極端な話、はみ出し方なんかありませんから。その中からどうやってはみ出すか。だから正解がないものをみんなで話し合うアートセッションは重要だと思います。

Q.芸人の方々は場の空気を読んだり、適切な会話のキャッチボールができたりと、一般会社員よりコミュニケーション力が高いと思います。その秘訣はどこにあるのでしょうか?

ハチミツ二郎:これは人を笑わせることです。芸人には数字がありません。足が速ければオリンピックを目指せますし、野球が上手ければプロを目指せる。お笑いは自分が面白いと思っているだけで、お客さんが笑う保証はゼロです。例えば高齢者ばかりの場であってもお金をもらっている以上は笑わせないといけない。なので芸人のコミュニケーション力が特別高いということはありません。たけしさんも松本さんも暗いですよ。周りに人がいて初めて喋る。笑わせるぞって気持ちが「コミュニケーション力がある」というこということになってると思います。

Q.芸人と会社員の両立に際して心がけてることやコツを教えてください。

ハチミツ二郎:「芸人がやっている」という軸を絶対的に持つことです。芸人をオフにしてゲームを作ってるわけではなく、芸人がゲームを作っている。パラレルワークをするならそれぞれのパーセンテージをパッとイメージできたほうが良いですね。

Q.思い立ってから行動するまでにどのような準備をされましたか。また行動できた原動力は何でしたか?

ハチミツ二郎:昨年『マイ・ウェイ』(双葉社)という本を出して、そこにも書いたんですが、私の場合はもうやり残したことがないんです。「何歳までにこれをやりたい」というのは45歳までに全部終わらせた。例えば大仁田厚さんとの電流爆破デスマッチ、やらなくていいんだけど、やらなきゃいけない理由がこの本には書いてあります。やるかやらないかで迷ってる時点で原動力はありません。イメージしたことはどんどんやっていく。

Q.芸人の方が一般企業で働くにあたって、どう後押しをしていますか。どのようにモチベーション高く取り組んでもらえるか、心がけていることはありますか?

ハチミツ二郎:これに関して後押しはしてません。彼らはあくまでも「芸人一本で成功したい」というモチベーションでやってますから。たまたま私はイレギュラーで会社員になりましたよ、こういう感じのことで良ければ紹介しますよというスタンスです。

どんな状況でも人を笑わせるのが芸人

Q.軸やこだわり、譲れない価値観はありますか?

ハチミツ二郎:さっき答えたように「芸人である」ということが軸です。これは変わりません、そこに尽きます。

Q.ITの世界を覗いたことで「芸人としてやってみたいことが増えました」と記事にありましたが、アイデアが作られる瞬間やそこに至るまでの時間、頭の中でどんなことが起きていますか?

ハチミツ二郎:今大喜利的な発想を育てるアプリを作っています。IT企業に入って知ったことですが、日本はアプリにお金を使わない。中国だとアプリゲームに100万使うようなドラ息子がいっぱいいます。どんどん日本のランキングが落ちている。だからアプリも全世界を目指せるよう、言葉を入れていません。言葉を入れずに大喜利的発想を育成できるものを作っています。

Q.芸人と会社員の両立は珍しいと思いますが、収入はどのように変化しましたか?

ハチミツ二郎:芸人としてのイベント2本分が会社員の月収なのですが、その2本がゼロになった時期が数ヶ月ありました。だから会社員の方は収入アップのためにやっているわけではありません。まだキャリアを積んでいる状態です。社長には「僕が社長になるまで会社にいますから」と言ってあります。企業内独立制度があって、企画を通せば小さいながらも社長になれる。そうなれば経費という部分で収入が増えますね。接待費をいっぱい使おうと思います。

Q.芸人と会社員という違う経験が役に立ったこと、共通して大切だと思うことを教えてください。

ハチミツ二郎:会社員に芸が役立つということはあまりないです。できればやらないほうが役に立つ。時代が変わったんです。例えばこの場で全員が横山やすしさんみたいに怒鳴りまくって「ワシは帰るぞ」くらいのほうが芸人としては面白いのですが、今はそんなことは全然できない。ただお金に関する考えは変わりました。例えば4500円のチケット、これをサラリーの中から出してくれる人がいるわけですから手が抜けなくなります。同じネタをやるにしても少し変えようと思うようになりました。うちの相方はまったくそう思ってないですけど。

Q.芸人や仕事で失敗した時に心がけていることや、マインド面での持って行き方を教えてください。

ハチミツ二郎:『マイ・ウェイ』を読んでください。これを読んだら芸人はどんな状況でも目の前のお客さんを笑わせなきゃいけないってことを綴っています。電子版もありますので、ぜひ。

Q.漫才のネタを作る際に大切にしていることはなんですか?また新しいネタを作るためのアイデア出しはどうやっているのでしょうか?

ハチミツ二郎:ネタ作りには「明日までに作ろうと思うと作れる」「浮かんだときしか出てこない」の2種類があって、私は後者です。お風呂に入っているときでも、布団に入った瞬間でも、浮かんだらすぐにメモを取ります。だから作ろうと思って作らずに、24時間体制で浮かんできたものをネタにする。生み出すというよりもひらめく。これはゲームづくりにしても同じです。

―― ご質問者さん、ぜひネタを作る際の参考にして副業で芸人さんを始めてくださいね!それでは最後に、ミドルシニアの皆さんへ向けて一言エールをお願いします。

ハチミツ二郎:はみ出せ!!(会場どっと沸く)

―― 本日は貴重なお話をありがとうございました!

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