学長通信『則天去私』 President's Blog
No.4 縁 2022年12月
“運がいいとか悪いとか 人は時々口にするけど めぐる暦は季節の中で漂いながら過ぎていく 忍ぶ 忍ばず 無縁坂”
1975年(昭和50年)のさだまさし、グレープ時代のヒット曲「無縁坂」の一節です。 無縁坂ってどこにあるのか皆さんご存知でしょうか?
先日、上野不忍池から池之端を通り抜け、鉄門をくぐり、友人を見舞いに東大病院に行く途中、久しぶりに無縁坂を登りました。 この歌を思い出し、また今年五月に逝った母の姿にも思いを馳せながら、歌詞をくちずさみ、少し立ち止まって撮った写真が右下のものです。
この後、歌詞は「忍ぶ忍ばず無縁坂 かみしめる様な ささやかな僕の母の人生」と続きます。当時この歌を初めて聴いた高校生の私は抒情的なメロディにもっぱら心を奪われましたが、「運がいい 悪い」「忍ぶ 忍ばず」と韻を踏むが如く言葉を紡ぎ、「ささやかな」につながる詞は、時を経て、改めて「人生」の妙を言い得ていると感じました。 さすが、同年生まれの中島みゆきと双璧をなす稀代のシンガーソングライターさだまさしの真骨頂です。
「史記」由来の「禍福は糾える縄の如し」のとおり、好運と不運に翻弄され一喜一憂する我々人間は、渦中にいてはわかならいものですが、忍ぼうと忍ばなかろうと、悠久の時や一生の時間のスパンで見るならば、「めぐる暦は季節の中で漂いながら過ぎていく」のであって、所詮は無意味であるとも、だからこそ、面白いとも言えると思います。
ライフシフト大学的に言うと、「忍ぶ忍ばない」というEndurance的な感じ方を超えたResilience(しなやかさ)的な心の持ち方、覚悟が、「好運」や「不運」を超えた主体的な「幸運」の感得に結びつくのではないでしょうか。
無縁坂は旧岩崎弥太郎邸の煉瓦塀に面しており、この写真に写る塀の向こうにはコンドル建築の本館があります。 また、この無縁坂は、森鴎外の名作「雁」の主人公である学生岡田が散歩の途上でヒロインお玉と出会う場所でもあります。長崎出身のさだまさし、長崎ゆかりの岩崎弥太郎、津和野出身の森鴎外の光と影を感じながら、「うん」と「えん」の糸が織りなすこの坂を一度登ってみませんか?
(著者:藤田 英樹)